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笑顔が一番美しい アジアNo.1レストラン「傳」 長谷川在佑の仕事論

Image by: FASHIONSNAP

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 「美しさって人それぞれですが、幸せを感じた時の笑顔が美しいと思っています。やっぱり嫌な笑顔なんてないじゃないですか」。

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 国内外から人が訪れる日本料理店「傳(でん)」料理長 長谷川在佑の言葉だ。「笑顔は美しい」。ややもすると、聞こえの良い言葉に思えるかもしれない。しかし、綺麗事ではなく料理?接客?スタッフ教育?店づくり、そのすべてが人の笑顔を生み出すために設計されている。

 何度も足を運ぶ人が後を絶たない理由も、料理の技術や創造性だけでは説明できない。そこには相手を知り、相手のために尽くし、関係性を育てる哲学がある。「料理はできて当たり前」。そう語る長谷川に聞いた「美しさ」を引き出す仕事論。

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長谷川在佑
1978年東京都出身。幼少期より芸者をしていた母の影響で日本料理に触れて育つ。高校卒業後、神楽坂の老舗料亭「うを徳」で修行を積み、母親が営んでいた小料理屋で働く。2008年29歳の時に独立し、神保町に「傳」をオープン。その後、2016年に神宮前に移転。受賞歴として、「世界のベストレストラン50」Art of Hospitality Award(2019年)、「世界のベストレストラン50」11位(2021年)、「ミシュランガイド」2つ星(2022年)、「アジアのベストレストラン50」1位(2022年)など。

笑顔に「美しさ」が宿る

──美しさというと、ファッションやビューティの世界でも、単純な見た目だけではない部分にも注目が集まってきています。長谷川さんは美しさをどのように捉えますか?

 僕が「美しさ」を感じるのは、人が食事を通して喜びや幸せを感じている瞬間なんです。食べて笑顔になる姿って、すごくいいなと思うんですよ。ほら、笑顔って、基本的に嫌な笑顔はないじゃないですか。
 だからこそ、それを引き出せるような場所にしたいと思っています。

──というと?

 お客さまが来店されてからの2?3時間をどう幸せなものにできるかを追求しているんです。そういう意味で、僕は料理人ですがサービスマンに近い感覚を持っているのかもしれません。料理を作ることだけではなく、相手目線で体験を設計することが仕事だと考えています。

笑顔を見るために、「今日は何が食べたいですか?」

──「相手目線」は業界を問わずさまざまな仕事において大切になると思います。その考えはどうやって培ったのでしょうか?

 傳をオープンする1年前の28歳の頃。もともと、高校卒業後に神楽坂の老舗料亭「うを徳」に住み込みで修行していて。それを終えた後、母の小料理屋を手伝うことになったんです。

 小料理屋で始めは自分の中で自信がある料理を出していたんですが、思うような反応が返ってこない…。「おいしい」と言われないんです。来る人も、修行先のおやっさんや経営者など、食に詳しい人ばかりで、自信が次々と崩されていくような感覚でした。

──挫折、とも言える経験ですね。

 どうしてだろうと思っていたある日、母からの言葉がありました。

 「あんた何を学んできたの?自分が作りたいものばかりで、お客さまが食べたいものを作っていないよね」。

 振り返ると自分の料理のことばかり考えていて、肝心のお客さまを見れてなかったんです。そして、「毎日1万円だけ渡すからそれでお客さまが喜ぶ料理を作りなさい」と言われて。

──どう乗り越えたんですか?

 どうすればいいかを考えた末、行き着いたのが「今日は何が食べたいですか?」と本人に聞くことでした。

 すると「カツサンドが食べたい」「スパゲティが食べたい」とか言われるんです。日本料理の修行をしてきたので本来は専門外。けれど、「分かりました」と言って買い物に行き、一生懸命作る。そうしたら「うまいね」って笑顔で食べてくれて。

 こうした経験を繰り返して気がついたのは「お客さまは食べたいものを食べられることが嬉しい」という当たり前なことだった。振り返ると、あの1年間は大きかったですね。

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笑顔が広がる、「自分の料理」は信頼関係の後

──その経験が「傳」につながっていった。

 はい。初めは自分ができるものをメニューとして書いて出していたんですが、その言葉を思い出したんです。

 例えば「おいしかったよ。また来るね」と言われたら「またって、いつですか?明日は全然違う料理を作りますよ」とか、「食べたいものがあれば作りますよ」と。今考えると変な話ですが、開店したばかりだったので必死だったんです。

 それらが奏功し、次第に口コミで「あの店は面白い」「食べたいものを言うと作ってくれる」と徐々に広がっていきました。

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──常連さんではない新規のお客さんとの信頼関係はどう作っていますか?

 雰囲気作りですね。僕は初めて来るお客さまをすごく大事にしたいと思っているんです。むしろ常連さん以上に大切にしなければいけないと思っています。

──そう考えるようになったきっかけはありますか?

 昔、有名な日本料理店に食べに行った経験があります。その時、カウンターでは常連さんが料理人と楽しそうに話している。でも僕はテーブル席で、その輪の外にいる。「なじめてないな」と思いました。だから自分の店では同じ思いをさせたくないと考えるようになりました。

 忙しい時にはスタッフに「初めてきた○○さんから出すようにしてね。常連さんは優しいから待ってくれるし。絶対に怒らないから」ってわざと言うんです。で、ウインクでもしておく。そうすると常連さんは怒れない(笑)。初めてのお客さまは、歓迎されている気持ちになりますし、常連さんは「あ、俺たちいじられてるな」とそこでまた盛り上がる。そうやってお店の空気を一緒に作るようにしています。

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──「笑顔(美しさ)」を引き出すために、料理だけでなく雰囲気も作っているんですね。

 料理をおいしく感じてもらうには、空間も会話も大切なので。緊張して食べるより、リラックスして食べた方がおいしいじゃないですか。そういう場を作って笑顔でいてもらいたいんです。

 日本料理店では、高級店ほど「子どもお断り」という文化があります。僕はそこに少し違和感があって。お店を始めて18年経ちますが、お客さまの中には、お子さんが生まれ、夜は来られなくなった方もいます。

 実はそういう方たちだけに向けて週末のお昼に営業をすることがあります。もちろんお子さまも一緒です。お店は多少賑やかになりますけど、それはそれでいいじゃないですか。何なら僕がお子さんを抱っこしていることもありますし(笑)。

──密な関係ですね。

 そうかもしれませんね。実は常連さんのお子さん、5人の名前を付けさせてもらったんです。

──5人ですか!

 そんなこと普通ないですよね(笑)。でも、そういう関係性っていいなと思うんです。単に料理を提供する場所ではなくて、人と人とのつながりが生まれる場所というか。昔の商店街みたいな、お店とお客さまの距離が近かった時代の空気に近いのかもしれません。

 もちろん、何でも要望を聞くわけではありません。できることはできる、できないことはできないとはっきり伝えます。ただ、後からメールや電話で伝えるのではなく、その場で話すことを大切にしています。そうすると対等に本音で言い合える関係が作れるんです。

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短所があるから愛される、笑顔が生まれる

──ミシュランの星もそうですが、世界のベストレストラン50「Art of Hospitality Award」など、受賞歴も豊富です。これらの考え方が、結果につながっているのでしょうか。

 そうかもしれませんね。ただ、僕はそういったアワードそのものには、あまり興味がないんです(笑)。もちろん評価されるのはうれしいです。ただ、それが自分たちの誇りになる訳でもない。一番大切なのは、新しく来てくれる人も含めて、お店を支えてくれる人たちの笑顔を引き出すこと。

 結局、今日目の前にいるお客さまが喜んでくれるかどうか。その1点に向き合うしかないと思っています。そういう意味では毎日不安を感じながらやってますね。

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──長年評価され続けている今でも不安があるんですね。

 毎日あります。いつも不安で心配です。でも、それでいい。僕は最強チームを作ろうとは思わないんです。

──それは何故ですか?

 どこか弱さがあって、応援したくなるチームの方が合っていると思って。最強のチームって意外とファンは応援しないじゃないですか。少し弱いところがあった方が、「頑張れ」って応援したくなる。人もそうだと思うんです。短所があるから愛される部分がある。その方が人間らしくて、好きなんですよね。

 お客さまからも「おいしかった」と言われるよりも、「楽しかった」と言われる方が嬉しい。その言葉の方が、いい時間を提供できたと感じるんです。「おいしかったかどうかは分からないけど楽しかったよ」と言いながら、次の予約を入れて帰る方もいます。お店って料理を食べるだけの場所じゃなくて、人に会いに来る場所でもあると思うんです。それは僕だけじゃなく、長く働いてくれている他のスタッフにも。

店内の柱にはたくさんの来店者からのメッセージが。

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料理はできて当たり前、大切なのは仕事に向き合う姿勢

──スタッフの教育はどのようにされていますか。

 心のある人間に育って欲しいので、料理の技術よりも、仕事に向き合う姿勢を大切に指導しています。もちろん厳しいことも言いますが、失敗そのものを強く責めることはありません。料理を失敗したなら、もう一度作ればいいだけですから。

 でも、お客さまのためにできる準備を怠ったり、自分がやるべきことをやらなかったりした時は違います。その時には「それはお客さまのためになっているのか」という基準で話すようにしています。

──ファッション?ビューティ業界においても、仕事の先にいる相手を考えることは重要だと感じます。組織としてその考え方をどのように浸透させているのでしょうか。

 日々のコミュニケーションもそうですし、うちではスタッフを最初からキッチンに立たせないで、まずはホールに出てもらうようにしています。「どんな人が来るのか」「どんな食べ方をするのか」「どんな会話をするのか」。それを知らないままキッチンに入ると、料理を作ることしか見えなくなってしまうので。

 まずは、お客さまを知ることが重要なんです。そうすることで、その料理の先に誰がいるのか、そして何を求めているかを考えることができます。

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──確かに知ることで意識が変わりますよね。相手目線で考えられるようになり、それが「笑顔(美しさ)」を引き出すことにつながると。

 はい。そうすることで、「ただ人数分の料理を作る」という発想ではなくなります。「この人は少食だから少なめにしよう」「この部分は多めにしよう」と考えられるようになる。

 もちろん料理をおいしく作ることは大前提です。しかし、その料理が口に合うかどうかは最後まで分かりません。ただ、お客さまのことを考えながら作った料理と、何も考えずに作った料理では全然違う。僕は毎日「今日は誰が来るのか」を頭に入れて、その人を想いながら料理を作っています。そうやって作っていったらおいしくなっちゃう。なっちゃうんです。

 家族や恋人が作る料理がおいしく感じるのも、同じ理屈ですよね。料理には技術だけではないおいしさにつながる部分がある。だからスタッフにも、「料理人はただ作るのではなく、相手のために料理を作る人なんだ」と伝えています。料理はできて当たり前ですから。

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お客さまと一緒に、笑顔があふれる“巣”を作る

──「誰のために料理を作るか」を考えられる人になってほしいということですね。

 そうです。でも実は、スタッフを育てるのは僕だけじゃないと思っています。

──上司以外にも育てる存在がいる?

 はい。うちでは新人スタッフが入ってきたら、お客さまに紹介するようにしています。例えば、「この子は地方から出てきて頑張っているので、良かったら褒めてあげてください。できていなかったら叱ってください。この子の行く末は〇〇さん次第ですよ」と。

 するとお客さまも自然とその子を気にかけてくれるようになる。お客さまがスタッフの名前を呼んでくれたり、「前よりいい顔しているね」とか、「最近どうしたの?」と声をかけてくれるようになる。そうやってスタッフは僕に評価されるためではなく、お客さまのために働くようになるんです。

──お客さまと一緒にお店を作っている感覚なのでしょうか。

そうですね。昔から「お店はお客さまが作る」と言いますが、本当にその通りだと思っています。店の雰囲気はスタッフだけで作るものではありません。そこに来てくださる方々がいて初めて生まれるものです。

 僕たちもお客さまによって成長させてもらっています。スタッフの変化を一緒に喜んでくださる方もいますし、時には励ましてくださる方もいる。そうやって少しずつ関係を築きながら、お店そのものを一緒に作っている感覚ですね。

──レストランというより、1つのコミュニティのようですね。

 実は店名にその思いを込めています。「傳」は「伝」の旧字体です。お客さま、生産者、僕たちそれぞれの思いを伝えられる場所にしたいと思って名付けました。

 英語の「Den」には、動物たちの巣や住処、コロニーという意味もあります。みんなが集まる場所、帰ってこられる場所ですね。店を始めたときから、単なるレストランではなく、人が集まり、思いが行き交う笑顔があふれる場所にしたかったんです。

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すべて笑顔のため

──お客さまのことを知ろうとする姿勢は、海外での活動にもつながっているのでしょうか。

 そうですね。きっかけは単純で、海外のお客さまと話している時に、「私はこの国出身です。行ったことありますか?」と言われて、「行ったことありません」で会話が終わってしまう。それが寂しかったんです。

 実際に海外へ行ってみると、自分がおいしいと思うものを相手はそう思わなかったり、逆に自分には理解できないものを相手がすごく喜んで食べていたりする。そこで、「おいしい」も「美しい」と同じで絶対的なものではないんだなと思いました。だからこそ、自分の価値観だけで判断しないことを大切にしています。まずは相手を知ること。その人が育った文化や背景を理解しようとすること。それがコミュニケーションの出発点だと思っています。

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──相手の「美しい」を知ることが大切なんですね。ところで、傳はいわゆる伝統的な日本料理店とは少し違いますよね。

 かもしれません。日本料理には長い歴史があって、ある種の決まった形があります。白木のカウンターで静かに料理と向き合う。そういう日本料理店ももちろん素晴らしいと思います。でも僕はあえて逆をやりました。もっと会話をして、もっと楽しく食事をしてもらう。分からないことがあれば一緒に話して説明する。当然、最初はすごく怒られました。「日本料理を馬鹿にしているのか」と言われたこともあります。でも僕は、日本料理が好きだからこそやっているんです。分かる人だけが分かればいいという形のままだと、日本料理に興味を持つ人が広がっていかないので。

──料理にも独自性が宿っています。
 
フォアグラが入った最中や、オリジナルのフライドチキン「傳タッキー」などは初見で驚かれた方も多いかもしれません。最初に出したときは、「日本料理なのにあんなものを作って」と言われることもありました。

 けれど、それぞれ手で開けて食べられるので、海外の箸に慣れていない人でも楽しめるんです。箸が苦手だから日本料理に行けないなんて悲しいじゃないですか。傳タッキーは箱に入れて提供していますが、それにも狙いがあります。箱を開ける瞬間って、大人でも子どもでもうれしいじゃないですか。日本料理店に入って緊張している海外のお客さんが、あの箱が出てきた瞬間に笑うんですよ。それってリラックスした瞬間なんです。コースの早い段階でそういう空気を作りたいので序盤にお出ししているんです。

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──笑顔(美しさ)を引き出すため、リラックスしてもらえるような工夫があるんですね。

 そうですね。最中はデザートとしてのイメージが強いものなので、少し緊張してそうなお客さんには「間違ってデザート出しちゃいました」と冗談を言って出したりしています。

──長谷川さんが国内外の方を問わずホスピタリティを徹底される理由は何ですか?

 東京の小さなレストランなのに、世界中からここを目指して来てくださる方がいる。だからこそ、がっかりさせたくないんです。

 お客さんに喜んでもらえる、笑顔になってもらえる料理を作りたいし、それをおいしく食べてもらえる空間も作りたい。そしてまた来たいと思ってもらえる場所でありたい。「あいつの料理はいい」と料理人から評価されること自体を、僕は目的にしていません。だって、そのために料理を作っているわけではないですから。僕がやりたいのは、お客さんの笑顔のために料理を作ることです。

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最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

平松将

Sho Hiramatsu

青山学院大学経営学部卒業後、大手事業会社を経て文化服装学院に入学。服作りを学んだ後にレコオーランドに入社。
ファッション、アート、カルチャーに加え、人々の暮らしなどにも関心を持つ。日課としてジャーナルとメモをつける記録愛好家兼トレーニー。骨格筋量41.4kg

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